読書レビュー 『学力の経済学』 中室牧子著

教育に関する思い込みは科学的根拠によって覆されることもある

 

今回はこちらの本をレビューしてきます。

 

  • データを用いて教育を経済学的に分析する
  • 「ご褒美」はアウトプットよりもインプットに対して与えると効果的
  • 「頭がいいのね」よりも「よく頑張ったわね」の方が有効
  • 教育の収益率が高いのは、高等教育よりも幼児教育

本書は、大まかに分けると前半が「教育論」で後半が「教育政策論」になります。

今回は5カ月の子供がいる自分の視点から、前半の「教育論」についてお話をしていきます。

 

データを用いて教育を経済学的に分析する

本書が人気だった理由としては、今まで「通説」と思われていた教育に関するセオリーの多くが、「思い込み」に過ぎないとしていることでしょう。

そして、過去の膨大なデータから科学的根拠のあるノウハウを紹介している点が、正解のない教育分野の本として人気だったのだと思います。

 

その中でも

  • ご褒美で釣っても「良い」
  • ゲームをしても「暴力的にならない」

など、それまでなんとなく信じられていた教育論を否定していることは刺激的です。

 

教育という分野に関しては、誰でも接する機会があるため、誰でも評論家になれる性質があります。

たった一つの事例に過ぎない事象に対しても、さもそれが正解だと認識されてしまう危険性があると著者は述べています。

 

子供の教育の成功については、あまりに多くの要因が絡まっているため、「~をしたら東大に行ける!!」といったノウハウはあまり役立たない場合が多いのです。

ですので、たった一つのケースで結論を出すのではなく、膨大なデータをもとに傾向を分析する経済学の手法が有効なのです。

 

ご褒美はアウトプットよりもインプットに対して与えると効果的

まず本書では「子供に対してご褒美で釣ることは正しい」としています。

それは、人間の性質上、近い将来のメリットを大きいものとして解釈してしまい、遠い将来の結果を軽んじてしまうという点からも明らかです。

 

「今勉強をしないと将来困ったことになる」と親がいくら話をしても、子供は近い将来(今)の快楽を優先してしまいます。

むしろ、目の前ににんじんをぶら下げることで、子供を今勉強するように仕向け、勉強をすることを先送りさせないという戦略は、経済学的に正しいとしています。

 

そして、ご褒美をあげるポイントとしては、アウトプットよりもインプットに対する方が効果的だとしています。

具体的には、

「テストで良い点をとればご褒美をあげる」=アウトプット

「本を1冊読んだらご褒美をあげる」=インプット

で、後者の方が効果が高いとしています。

 

多くのデータがそのことを示しており、その理由は、「インプットにご褒美が与えられる場合は、子供にとって何をするべきかが明確」だからです。

反対にアウトプットにご褒美が与えられた場合は、具体的な方法は示されていないです。

学習において重要なのは、「テストで何点とるか」よりも、「勉強の仕方を勉強する」ことなのです。

 

ですので、まだ勉強の方法を学んでいない子供には、「本を読む」ことや「授業で話をしっかり聞く」、「わからなければ質問をする」といったインプット系の行動に対して報酬を与えることが重要です。

 

アウトプットにご褒美をあげる場合は、このような勉強のしかたを教え、導いてあげることがまず必要です。

 

「頭がいいのね」よりも「よく頑張ったわね」の方が有効

褒め方についても言及していますが、このように、「もともとの能力」を褒めると子供たちは意欲を失い、成績が低下するとしています。

このことは2つの側面があります。

  1. 頭の良さに着目する場合は悪い結果に対しても、元々の頭が悪いという判断になってしまう
  2. 努力に着目することで、違う場面でも子供は努力をするようになる

 

教育の収益率が高いのは、高等教育よりも幼児教育

ここでいう「収益率」とは、簡単に言うと「教育という投資に対するリターンの割合」になります。

株や債券といった投資に近いイメージです。

 

子供の教育に時間やお金をかけるとしたらいつがいいのか?という問いに対しては、子供が小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)と述べています。

 

人的資本への投資はとにかく子供が小さいうちに行うべき

という主張には理由があります。それは

  • 幼児教育の効果は、以降の教育に多大な影響を与える
  • 学力以外の重要な能力は、幼児教育段階で育まれる

ということです。

1つ目は分かりやすく、掛け算ができなければ因数分解はできないように、子供の基礎的な能力は、それ以上の段階においても有効に働くという点です。

 

2つ目の学力以外の重要な能力のことを著者は「非認知能力」と表現しています。

この非認知能力としては、

  • 自制心
  • やり抜く力

が挙げられています。

こうした素質は幼児教育で鍛えることができます(大人になっても鍛えることはできますが、費用対効果が高いのが幼児教育の段階)。

また、こうしたしつけを受けた人は年収が高いとデータが示しています。

 

子供の教育に関しては、小さいうちからこうした非認知能力を鍛えるために投資することで将来のリターンが大きくなることが期待できます。

 

確かに、子供が小学校高学年になってから急に学習塾に通わせて、無理やり勉強させるよりも、小さいうちから勉強する習慣をつけたり、努力を続けることの楽しさを知っている方が効果的だと思います。

 

本書は十人十色の主張をする教育という分野に、科学的なデータを示している点がとても印象的です。

 

子供がいらっしゃらない方でも、「自分への教育」という点で読んでみられることをお勧めします。

是非ご一読ください。

 

 

 

 

おすすめ本・書評
スポンサーリンク
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
最新情報をお届けします。
シロガネをフォローする
雪だるま式~Snowball-Effect~
タイトルとURLをコピーしました